優秀賞 「やりがいのある仕事」という幻想
大澤 侑希

 最近、「就活自殺」「リストラ」などという言葉をよく耳にするようになった。仕事に追われる毎日を過ごしている人も少なくはないだろう。
そもそも仕事とはなんだろう。どうして人は、仕事をするのか。その答えが、この本には詰まっている。「人は働くために生きているのではない。」この本の著者、森博嗣が仕事に対する第一原理としている言葉だ。
近年では、働くことを人生の目的としている人が大勢いると思う。本人は、そう思っていなくても、社会をとりまく環境がその状況を作り出してしまっているのかもしれない。
例えば、仕事をしていないと「一人前の社会人」として見なしてもらえない。数年前までは、働かない者には選挙権がない。「働かざる者、食うべからず」という諺まである。
そのような環境の中で追い詰められた人々には、この森さんの言葉は心にしみる。「働きたくなければ働かなければいい。職を持っていない人を見下げたり、可哀想だとは思わない。仕事が人の価値を決めるのではない。どんなに仕事の立場が偉くても、人として尊敬できるか、できないかは別だ。」
では、そのような環境をつくった原因はどこにあるのか。それは、大人の態度にあると森さんは言う。
仕事を持った大人たちは口々にこう言う。「もう、これからは遊べないのだ。」「自分に合った仕事に就かないと人生が台無しになる。」それらを聞いた若者たちは、仕事というものに大きなプレッシャーが沸き起こる。だから、若者たちの就職というのは、まるで「戦場」なのだと吹き込まれ、否応なく「戦場」へ向かわされる行為なのだ。
この本は、そんな仕事に対する幻想を回避させてくれる。もし、自分の思ったとおりの就職ができなくても、全然悲観するようなことはない。「仕事をしている人」としてではなく、「人間」として基本的に大丈夫かということを忘れないでいて欲しい。 この本は、仕事に対する基本的な考え方、あるいはヒントを私たちに与えてくれる。仕事で悩んでいる人、「就職に失敗した人たちに是非読んで欲しい一冊である。
私は、この本を読む前と後では仕事に対する想いというものが大きく変わった。私は、まだ仕事をしたことがないので、経験的には語れないが、仕事に対して、もう少し柔軟なとらえ方をしてもいいのではないかと考えている。
確かに、稼ぐことは簡単ではない。しかし、仕事というのは、目的を達成する手段の一つでしかないのだ。この本は、森さんの素の考え方を示してくれていると思う。きれい事を言うのではなく、森さんの思ったままを書いているのだ。
それを私たちに、強要するわけでもなく、ただ森さんの意見が書かれてあるのだ。これを読んで「なるほど」と自分で気づくことに出会えるのだ。社会では常識といわれていることを、森さんはそれに対して疑問を投げかけているところがとても興味深い。
たいていの著者は、「この本をもっと多くの人に読んでもらい、社会が少しでも変わればいい。」といったようなものを書く。
森さんは、こう書いている。「この本を読んだ人がどうなるのか、どう感じるのか、ということも、僕はあまり興味がない。個人への影響については、小さすぎるというか、僕からは遠すぎる。誰がどう影響されようが、それが僕に影響することはないからだ。」このようなストレートな表現は、私の心に強く響いた。
さらに、四章では、仕事の悩みや不安に応えるという一問一答形式のように書かれており、読み手にとって、回答が明確に伝わるよう工夫されてもいた。 最後に、私はこれから大学生になりいずれ仕事に就くと思う。自分自身や周りの人が悩んでいたら、こう声をかけたいと思う。この言葉は、この本の中で私が好きな言葉だ。「仕事に勢いが持てなくても、すごい成果が残せなくても、人が羨む職業に就けなくても、きみの価値は、変わらない。」


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