優秀賞 「永遠の0
大政 慶恵 

 この本は、フリーターである佐伯健太郎が特攻隊で亡くなった祖父の生涯を調べるため、数々の祖父の戦友たちに尋ね歩く物語です。
 ある日、健太郎は本当の祖父が昔特攻隊で亡くなったと聞かされます。今まで祖父だと思っていた人が実は血はつながっていなかったのです。そんな時、ライターである姉から戦争についての本を出すために、祖父のことを調べてほしいと頼まれます。最初は乗り気ではなかった健太郎ですが、本当の祖父がどんな人であったのか少し興味を持ち始めていきます。1人目の戦友は埼玉県に住む長谷川梅男。長谷川は宮部のことを航空隊一の臆病者と言い、悪く言います。健太郎は想像していた祖父の姿とかけ離れており、ショックを受けます。そんな中、次に訪れた伊藤寛次の口からは、勇敢なパイロットではなかったが、優秀なパイロットであったと聞かされます。また宮部は家族のために死にたくないと言いました。その当時、兵隊たるものがそのようなことを言うのは禁じられていました。宮部はそれほど、妻と娘のことを愛していたのです。3人目に訪れたのは井崎寛次。彼は病気ながらに一生懸命宮部のことを語ります。井崎はある日、夜草むらで訓練をする宮部を見つけます。宮部の優秀な腕前はただならぬ努力の賜物であったのです。その後の健太郎は何人かの戦友に話を聞くことによって、健太郎の中で祖父の存在は大きくなっていきます。 しかしそんな中、一つの疑問が浮かび上がります。祖父は人一倍生きることにこだわる人なのに、なぜ特攻で死んだのか。最後に訪れたのは、通信員の大西保彦。大西は宮部が特攻に行く所を間近で見ていました。宮部が乗るはずの五二型の飛行機を一人の予備士官に乗らし、自分は旧型の二一型に乗っているのを見たのです。それぞれの飛行機が出発し、後に一機だけ島に不時着したことを大西は知ります。なんとその飛行機は宮部が乗るはずだった五二型だったのです。そしてそれに乗っていたのが、健太郎の今の祖父だったのです。宮部は五二型の故障を見抜いており、自分だけ生き残ることを罪悪感に思い、健太郎の祖父に生き残りの切符を渡したのです。そのことを知った健太郎は何とも言えない気持ちでいっぱいになります。そんな宮部の勇ましい生き方を知った時、健太郎は自分も宮部のように一生懸命今を生きなくてはと決意するのです。この本の魅力は、戦争に対するイメージをくつがえしてくれることです。私自身この本を読む前と後では、全く戦争に対する印象が変わりました。この本は実話ではありませんが、戦地で戦う日本兵の状況や心情がこと細かに書き込まれています。あたかも自分がその時代に生きているようなスリルや臨場感でとてもドキドキするのです。またこの本は、今を生きる現代と戦争があった昔の時代を交互に対照的に描いています。同じ日本ではありながらも、時の流れや、その時代の背景の違いを感じさせます。そしてこの本のキーパーソンである、宮部久蔵を巡って物語は繰り広げられます。この本を読んだ人は、皆宮部の虜になることと思います。なぜなら最初から明らさまに人物像を提示するのではなく、徐々に読み進めていくうちに分かってくるからです。そのことが、宮部をもっと知りたいという衝動へと私たちをかりたたせます。そして私が何より感動したのは、この時代を生きた日本兵たちです。この頃はほとんどが皆、国や家族のために戦いました。しかし彼らは心の裏に隠された本当の気持ちを押し殺し、日本のために戦い死にました。愛する者のために命を捧げることができる人が、今の世の中どれくらいいるでしょうか。彼らの命を無駄にしないよう、私たちは毎日を精一杯生きなくてはなりません。戦争をなかったことにするのではなく、私たちが次世代に語りついでゆくことが、戦争で亡くなった多くの兵たちの死を意味あるものにできるのではないでしょうか。この本を読み終えた時、何とも言えない感動で胸がいっぱいになり涙がでました。おおげさと思うかもしれませんが、この本には人間の命のはかなさや、人間の愚さや強さや弱さなど、様々な感情表現が美しく記してあります。人は誰しも多かれ少なかれ悩みを抱えて生きています。しかし皆、それを見せることなく生きています。そう知った時、自分の父母がどのような人生を歩んできたのか気になるようになりました。いつも私のために色々してくれる父母が、子供のころはどんな風だったのか非常に興味があります。どんなことがあり、どう思ったのか、私の知らない父母をその時代に行って見てみたいです。人の為に生きることの喜びを知って、人は毎日を強く生きられるのだと思います。自分が毎日楽しく平和に生きてこられたのは父母のおかげであることを忘れてはなりません。このように自分の今の存在に感謝できた本でした。多くの人にこの本を読んでもらって、毎日を有意に過してほしいです。


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