優秀賞 「豚の死なない日
井出 唯花 

 私は、課題で指示された九冊の本をそれぞれ図書館で探し、その中からこの「豚の死なない日」を選んだ。また、課題の本のタイトルだけでも、この本に興味を持っていた。この本を選んだ一番の理由は、課題図書になっていたこと、ストーリー性があって自分の感情移入がしやすいと感じたところだった。

 この本は、作者の少年時代の経験をもとに、主人公ロバートが、質素な生活を信条とするシェカー教徒の両親のもとで、父親と愛豚ピンキーとのふれあいを通じて成長していく作品である。私は、本を読んでいる中で、父親の言ったセリフがとても印象に残っている。それは、「木は人を3回温めてくれる。1度目は木を切るとき。2度目は木を運ぶとき。3度目は木を燃やすとき」という言葉である。父親は、教育を受けていないけれども、日々自然に感謝し、自然から学んでいた。現代のように、自然から遠ざかっている生活では、このようなセリフは出てこないだろうと思った。

 また、私はこの本を読んで生きることの厳しさを学んだ。物語の中で父親は、借金をして農場を買い、毎日豚を殺さないと生きていくことができない。父親とこの家族が生きていくために豚は死んでいた。人が生きていくということは、色々な生き物を殺していくということ。色々な生き物たちの犠牲の上に自分たちが生きているんだと感じた。そして、そのことの善し悪しではなく、それをしっかりと意識して生きていることが大事なのだと思った。今、自分が生きているのは、たくさんの生き物たちのおかげだと思い出し、生きることの厳しさをしっかりと認識していなくてはならない。過去には、生きるために命のやり取りが行われた時代もあったはずで、生きること、生きていることに感謝しようと思った。また、主人公ロバートが、とても愛情を込めて育てた愛豚ピンキーと成長していくところにも心が暖かくなった。ある日、ラトランドという町で家畜の品評会があり、ピンキーも出場することになった。その品評会で、ピンキーは『しつけのいい豚・一等賞』でブルーリボンを受賞した。このことにロバートは大変喜び、帰り道、ずっとブルーリボンを握りしめていた程だった。冬が近くなり、父親はピンキーに発情期がこないことを心配し、調べてみたところ、ピンキーが不妊症だと判明する。同時に、父親は結核にかかっており、ロバートは大人になることを強いられる。子どもを産めないピンキーは、ペットとしてでなく家畜として処分されなければならない。そして、父親とロバートは、ピンキーを殺すことを選択しなければならなかった。暗い十二月の早朝、とても愛情を込めて育てた一番の宝物のピンキーを父親とロバートは殺した。二人は、表現しきれないほどの悲しみに襲われた。その時の父親の言葉が、私にはとても印象的だった。「これが大人になるということだ。これが、やらなければならないことをやるということだ」と。父親の心の厳しさをロバートはしっかりと分かっていて、大人になる厳しさも理解していた。父親が死んだ後、ロバートが父親の仕事道具を見ていた時に、父親が使っていた道具の取っ手が、父親が握っていたところだけ明るい金色をしているのに気付く。ロバートは、その取っ手を、「息を呑むほど美しい。働く手が取っ手を金色に変えたかのようだ」と感動し、自分の手がその道具を持てるくらい大きくなったかどうか確かめる。私は、ロバートは本当に父のことを尊敬していて、大好きだったんだなと感じた。そして、父親とロバートの絆は本当に深く強く結びついていると思った。理想の親子だと思った。

 この本は、ロバートを取り巻く環境がいきいきと描かれていて、昔風の親しさ、厳しさ、この時代の人の心の豊かさをとても感じさせられた。『豚の死なない日』というのは、父親が死ぬことを意味していたんだと思った。そして、人が生きていく上で、大切なことがたくさん詰まっている作品である。私は、この本に出会えて本当に良かったと思う。生きることの厳しさ、人とのつながりの大切さ、物質的な貧しさでなく、人としての心の豊かさ、たくさんのことを学ぶことができたからである。物語の中で、父親は、非常に貧しい生活を送っていたが、亡くなった時に集まってくれる人が多いほど豊かな人生を過ごし、人として愛されているんだと書かれていた。周りの人を大切にし、貧しくても人生に価値を見出すことが大切だと思った。私も、周りによく気を配り、人から愛される人間になりたいと思う。この本から得たことを、これからの人生に生かしていきたい。


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