優秀賞 「ルポ 貧困大国アメリカ
島田 朋香(1600082)  

 アメリカの家庭についてみなさんはどんなイメージをもっているだろうか?サブプライムローンなどの問題がありはしたが、私はまだ、郊外の庭つき一戸建てに夫、妻、子どもたちが幸せそうに暮らす様子を想像していた。しかし、この一冊の本を読んでから自分がアメリカの現状をほとんど理解していなかったというのを痛感した。そして、本の題である「貧困大国アメリカ」という意味にも納得した。
 アメリカでは肥満児が増加しているというのはみなさんも知っているだろう。しかし、貧困児童に肥満児が多いということは知っているだろうか?おそらく、この事実は初めて耳にする人も多いのではないだろうか。私もこの事実について初めて知り、驚いた。貧困層の子どもは、少しでも食費を安く抑えたいためにジャンクフードやファーストフード、揚げもの中心という食事が毎日続く。そのため、高カロリーな食事をとる子どもたちは肥満児となってしまうのである。肥満対策として、学校給食のメニューを低カロリーで栄養価の高いものへと変えられたら良いのだが、学校側は少ない予算の中でやりくりしようとするため、メニューはどうしても安価でカロリーの高い食品、ジャンクフードになってしまうのである。栄養が不足すれば、健康状態が悪化し、医療費もかかり学力低下にもつながる。そしてさらに貧困が進むという悪循環になっている。このことに対して、政府は「DDR」というゲーム機を導入して肥満児対策を計画しているが、せっかく汗をかいてもその後の給食に出る甘いチョコレートミルクを飲んでいては、何の意味もないだろう。
 そしてまた、貧困層が増加している問題がある。それは世界一高い医療費である。父親の代にキューバから亡命してきたホセ・カブレラは、「未来をつかめる感触、誰もに与えられるアメリカン・ドリームという名のチャンスを求めてこの国にやってきたんです。けれどふたを開けてみると、そんなものは幻想でした。」と語っている。私たちは、アメリカン・ドリームというものに夢見るが、その先にあるものは全て「自己責任」なのだろう。高い医療費のせいで、助かる命も救うことができなかったり、中間層から貧困層へと転落する人々がたくさんいる。そして私が何より驚いたのが、「日帰り出産する妊婦たち」だ。アメリカは、日本と違い、出産育児一時金制度というものがなく、出産費用が高いために多くの女性が入院出産することができず、日帰り出産しているのだ。看護師もそのことを分かっていて、早く次の患者を入れ回転させるという。主婦ナンシー・デイビスも「体は動かせるけどまだふらふらするって伝えたら、その看護師、親切に病室から外に出るための車椅子を持ってきたんですよ」と語り、苦笑いしている。アメリカは「自己責任」「自己負担」と言われるが、このような医療で良いのだろうか?
 日本では保険があるため、事故にあったり病気にかかったとしても何割か負担してくれる。アメリカでは保険に入っていても、様々な理由をつけられ支払いを拒否されることも多いという。また保険に入っていない人も大勢いて、高すぎる医療費のせいでなかなか治療を受けられない人がたくさんいるのだ。国も違えばシステムもまるっきり違うことを改めて考えさせられた。
 システムが違うと言えば、学資ローンもその一つだ。大学に行くにしてもお金がいる。そのため多くの人が学資ローンを利用するのだ。しかし、四年間一生懸命勉強したとしても、簡単には職に就けず、やっと就けた小さな会社の給料では学資ローンの返済は難しい。もし破産するようなことがあっても債務は消えず、そのまま残るというのが現状なのである。これでは若者たちの夢や未来が閉ざされてしまうのではないか。将来、国を支えていく若者が将来をあきらめてしまうではないか。借金が増えすぎて卒業を断念したテッド・グラハムも「教育が割に合わないなんて、この国は何かが間違っています。勉強したいと思うことは、間違っているんでしょうか?」と言っている。この疑問の言葉に私も同感した。頑張って大学を出ても、なかなか就職できず結局、学位など必要のない仕事に就くのであれば努力が水の泡だ。国は「教育」というものをきちんと見直し、「将来に希望をもてる若者」を育ててゆく責任があるのではないだろうか?
 この一冊の本には、たくさんの辛い経験をした人、アメリカという国に疑問を持っている人たちの肉声が詰まっている。ぜひ、みなさんにも大国アメリカの現状を知ってもらいたい。そして、私達日本の国についても考えながら読んでもらいたい。


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