優秀賞 「図書館の神様
大西 龍真(1600012)  

 私は課題図書の中から「図書館の神様」を選択した。この本は、思い描いていた未来とは違った生き方をしてきた主人公が、様々な出会いをきっかけに変化していく話である。まずは内容を説明していきたい。
 主人公である清は、小学校からバレーボールをしていて、高校の時にはチームのエースとして活躍していた。バレーボールに全てを注ぎ込んでいた清は、将来体育大学に進んでその後もずっとプレイをするはずだった。しかし、ある事がきっかけでバレーボールをやめてしまう。
 それは高校三年生の夏、隣りの高校から申し込まれた、あまり重要ではない練習試合の時であった。大差で勝っていたため今まで試合に出る機会がなかった補欠の山本さんが監督により投入された。試合慣れしていなかった山本さんはミスを重ねて、そのまま調子を崩した清たちのチームは明らかに弱い学校に負けてしまう。試合後のミーティングで清は山本さんを激しく責めて泣かしてしまった。普段からバレーボールに関して厳しい清は気にも止めなかったが、次の日の全校朝礼で山本さんが自殺したことを知る。山本さんとはそれほど親しくはなかったため、悲しさは感じなかったが、試合後のミーティングのことが引っかかり、周囲にも山本さんを死に追いつめたのは清だと思われていた。それに耐えきれなくなった清はバレー部を引退し、高校を卒業すると、遠くの田舎の大学へと進学した。
 清はその後、高校の講師となり、文芸部の顧問になった。文芸部の部員はたった一人しかおらず、初めの頃は「なんで私が文芸部の顧問をしなくちゃいけないの。」と不満を言っていたが、部員の垣内君と一緒に過ごしていくうちに、文芸部に対しての気持ちは少しずつ変化していく。
 垣内君も実は、清と似たような体験をしていた。彼は中学校の頃、サッカー部でキャプテンをしていて、夏の部活の練習中に部員が一人倒れて半年近く入院した。別に彼のせいではないのに一人責任を感じて、高校ではサッカーを続けなかった。
 二人の共通点は、どちらも責任感が強く、一方的な考え方を持っているところだろう。スポーツには怪我がつきものであるから垣内君のように自分をそこまで責める必要はない。また清については、勝ちにこだわりすぎて周りが見えずにいたのだろうが、それだけ気持ちが入っていたので仕方のないことだと思う。大切なのはその後ではないだろうか。
 垣内君は高校で文芸部に入部し、サッカーよりもおもしろいことを見つけたようだが、一方で清は結婚している男性と知りながらもその人と不倫をしていたり、得意ではないがなんとなく国語の教師の資格を取得した。ある時、清は垣内君に対して「文系クラブって毎日同じようにだらだら過ごしているだけっていうか、メリハリがないのよねえ。」と言うと、垣内君は「毎日走り込んだりする運動部のほうが同じことの繰り返しじゃないですか。文芸部は何一つ同じことをしていない。僕は毎日違う言葉をはぐくんでいる。」と返した。私はこの言葉にすごい衝撃を受けた。確かに垣内君の言うことはもっともである。私自身は運動部に所属していたが、毎日同じことを繰り返すことで上達することができた。それとは違い文芸クラブは同じことは何一つしない。どちらが正解でどちらが間違っているかなどとは思えない。このことでだれもが、文系クラブの良さを知ることがきるし、それぞれの部の良さについて改めて考え直すこともできるのではないだろうか。
 話の内容に戻るが、垣内君と一緒に過ごしていくうちに、様々な考え方が生まれた清は不倫の相手とも別れて地元の近くの学校で働くことに決めた。高校時代に起きた山本さんとの出来事から逃げずに、自分なりの人生を生きていこうと決めたのである。
 この本の題名「図書館の神様」はどういう意味なのか、読んでいる最中ではわからなかったが、最後の最後で明らかとなる。そこには、「神様のいる場所はきっとたくさんある。私を救ってくれるものもちゃんとそこにある。」とあった。これはその場所その場所に違った何かが私たちを待っていることなのだろう。この本では、図書館で清の生き方を変えた垣内君が待っていた。神様と出会えるのは一人ひとり違うところだ。
 最後に、この本の中にはいくつかの文学者や作品の内容が時々登場する。私自身もそうであるが、今まで作品名くらいしか知らなかったけれど、内容を少し知ることによって興味がわき、読んでみたいという気持ちにさせられる。あまり文学者についてくわしくない人は、この本を読むことで様々な方向に興味を持てるようになるかもしれない。読みやすい文章なので、ぜひ多くの人々に一度読んでほしい。


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