優秀賞 「インビジブルハート・恋に落ちた経済学者
清水淳規(11081659・久保ゼミ・愛媛県立三崎高等学校)  

 「インジビブルハート・恋に落ちた経済学者」は、名前のとおり経済学者が恋をするという内容である。その経済学者というのが、主人公であり、高校で経済学を教えるサム・ゴートンである。また、恋する相手とは同じ高校で文学を教えるローラ・シルバーである。しかし、二人の考え方は真っ向から対立している。サムは、政府による規制は、市場にとって有害であり、企業の自由な経済活動によって人類は繁栄すると考えている。一方、ローラは政府が市場を規制することで、消費者や労働者を守ることができると考えている。この意見の違いを乗り越えてローラがサムのことを好きになれるのか、ということがこの本のテーマである。また、このストーリーと並行して、もう一つのストーリーが展開される。それは、政府監視機関のリーダー、エリカ・ボールドウィンが、CEO、チャールズ・クラウスの不正を暴いていくというものである。この二つのストーリーのつながりも魅力の一つである。
 この本の1章は、サムの授業から始まる。サムは、生徒たちに地球の原油が後何年でなくなるかという問題を出し、考えることの大切さを説く。しかし答えは、なくなることはないという意外なものだった。このように、経済学についての内容も織り込みながら話が進められて行くので、ストーリー以外にも楽しみを持つことが出来る。3章では、サムとローラの出会い、について書かれている。その出会いはとてもユニークなものとなっている。安全性とコストについて二人は初対面とは思えないほど、激しいやり取りを繰り広げている。この後も二人は、出会うたびに高校教師の給料についてや、クリーニング代金の男女の違いについてなど討論を重ねていく。その討論を通して、二人の距離は近づいていくのである。そして、11章ではローラの家族と食事をするまでに関係が進むのだが、そこでもサムは、ローラの兄と企業の責任について激しいやり取りを繰り広げるのである。しかし、それがきっかけとなりサムとローラの二人はきまずい雰囲気となり、約1カ月もの間、話すことがなくなってしまう。しかし、13章でローラはサムの企業を隣の教室で聞き、サムの市場に対する考え方の真意を理解しサムへの見方も変わり始める。そして、15章では、ローラはサムを食事に招き、二人の関係も元に戻るのである。
 しかし、サムはもう一つ重大な問題を抱えていた。それは、仕事を解雇されるというものであった。サムはその危機をどうやって乗り越えるのか、それとも解雇されてしまうのかということも注目すべき点である。
 そして、もう一つのストーリーである。エリカは不正を暴くことができるのかその重要な手がかりとなるものが8章で手に入る。それは、ヘルスネット社の内部告発によるものだが、その中に書かれている数字は何を意味するのか。それは、16章でエリカが数字の示すものを見つけるのである。しかし、その頃には、クラウスの手があらゆる所にまで、回ってしまっていた。そして、ついに、17章で、二つのストーリーのつながりが明らかとなる。そしてエリカのことについてやはり、サムとローラは、討論する。しかし、この討論はこれまでとは違い、二人の考え方がお互いに理解されていたのである。
 そして、物語はクライマックスに入る。18章ではサムの最後の授業が描かれ、環境問題と政府の規制を取り上げている。そして最終章では、サムとローラの再会の場面が描かれている。しかもその再会は、出会った時と同じ場所、同じシュチレーションで。そこでサムは、自分とローラの考え方の違いを水と油ではなく酢と油にたとえて告白をするのである。そして、二人は陽射しの元へ踏み出していくのである。
 この本は、ストーリーを楽しみつつ、経済学を学べるという点が最も魅力的である。経済学に対して知識や興味のない人でも、この一冊で、興味を持つきっかけとなり、新たな知識を得ることが出来る。その一つの理由として、私たちが疑問に思っていることをローラがこの本の中で代弁してくれるからである。そして、その質問をサムが答えるというように、話は深みを増していく。二つ目の理由として、本の中でのサムの授業が挙げられる。
本の中では3回授業が行われるが、自分がその教室に居るような感覚で読むことができる。また、授業そのものもユニークで考えさせられる内容となっている。
 この他にも面白い部分はたくさんあるが、やはり、サムとローラのやり取りに注目していただきたい。この本を読み終えた頃には、経済についての考え方も変わっていることであろう。

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