優秀賞 「格差社会-何が問題なのか-」
矢野広大(11074004・岩林ゼミ・八幡浜高等学校)  

現在、日本の格差社会への関心が高まっている。国会や内閣でも格差の拡大について論争が起こっている。先日読んだ新聞では、前小泉政権下に地域間格差が拡大していると取り上げられていた。その小泉前首相が国会で述べた言葉がある。「格差はどこの社会にもあり、格差が出ることは悪いことではない」

本当に「格差が出てもしかたない」ことなのか。いったい「格差社会の何が問題なのか」と疑問に思う人も多いだろう。その疑問に答えてくれるのが、橘木俊詔氏の『格差社会−何が問題なのか−』である。

本書は、専門的な用語がたくさん使用されているが、その用語は筆者がわかりやすく説明してくれている。また、所々でグラフを駆使し、筆者の格差社会に対する見解が5章に分けて展開されている。難しい内容ではあるが、現在の日本の格差社会を知り、その打開策を考えるにはもってこいの本だと思う。

まず、第1章である。ここでは、格差の現状を検証するということで、様々なデータを駆使し、格差の現状がどのようになっているのかを検証している。筆者は、格差調査の指標を所得として、それによって日本国内での格差の現状、国際比較をした場合の日本について話を展開している。ただ格差調査といっても、あらゆる角度から現状を捉える筆者の視野の広さには驚いた。

次に第2章である。「平等神話」崩壊の要因を探るということで、ここでは第1章での分析に基づき、なぜ格差の拡大が起こったのか、その要因に迫っている。一言に要因といっても様々だと思うが、筆者は長期不況と雇用、所得分配システムの変容、構造改革に的を絞って話を展開している。私がここで注目したのは、構造改革である。文頭で述べた、前小泉政権下での格差拡大の要因について、筆者は格差拡大を容認した上での規制緩和や競争促進をしたため、かえって格差の拡大を助長したと論じていた。なぜ小泉前首相が強い気に「格差の何が悪い」と発言したのか、その背景が見えたように思う。

次に第3章である。ここでは格差が進行する中でということで、格差が拡大するに伴って日本社会がどのように変化しているのかを具体的に述べている。格差があるということは、富裕層と貧困層が存在すること。貧困層とはどのような人々を指すのか、筆者はデータを基に年齢別、世帯類型別にその答えを導き出している。また、現代の富裕層の行動について筆者は「ますます所得を増やすにはどうすればよいかということに熱中し、税金として政府から徴収される額をできるだけ減らしたいと努力している」と述べている。いかにして生活をやりくりするか、考えて生きている貧困層に対して、富裕層はこのような考え方でいるのかと思うと私は強い衝撃を受けた。

次に第4章である。ここでは格差社会のゆくえを考えるということで、このまま格差が拡大していった場合、日本社会はどのように変容し、そこでどのような問題が生じるのかをシュミレーションしている。格差は必ず存在するが、貧困層が増大することは日本社会にとってマイナスである。そこで格差をどこまで容認するのか、アメリカ社会を例に具体的に筆者の見解が展開されている。

最後に、私が最も注目してほしいと考える第5章である。ここでは格差社会への処方箋ということで、筆者が考える格差社会への是正策が述べられている。内容は、雇用格差、地域格差、教育格差、税制・社会保障制度についてである。ここで、現在最も身近である教育格差について話したいと思う。良い教育を受けられるか受けられないかは、親の所得が影響しているという。誰もがみな平等な教育を受けられるためには、学校を充実させるためのシステムづくりが必要である。だが、日本の公的教育支出は世界でも最低レベルであり、現在の状態では実現が難しいという。そこで筆者は次世代を担う優れた国民を育成するために、奨学金制度の見直し、公的教育支出の確保、職業教育の充実を提言している。
現状を的確に把握し、様々なデータを用いて打ち出されたこのような政策には共感できる。

この本は、格差社会の現状を様々なデータを基に分析し、これからの日本社会をシュミレーションしているので、私たちに格差社会の実態と、格差が拡大した場合の日本社会に対する危機感を知らせてくれるそんな一冊である。格差への関心が高まっている現在だからこそ、一度目を通してほしい一冊であり、これからの日本社会について考えるきっかけにしてほしい。

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