優秀賞 「渋谷」
早瀬 有里(11072872・増野ゼミ・ 松山東雲高等学校)  

あなたは「渋谷」と聞いて何を想像するだろう。何でも手に入る所、自分を変えてくれる所など、きっと多くの若者にとって憧れの場所に違いない。しかし、沢山の物が満ちあふれた所でも、苦悩して生きる若者が現実に多くいる。

この本では、そんな若者の実態を描いている。たくさんの少女が登場するのだが、メインは現在を生きる2人の少女と、社会人になった女性である。

では3人の女性について話す前に、著者藤原新也さんについて紹介しよう。彼は、作家でもあり、プロの写真家でもあるが、一言で言えば・・・変わっている。正確な歳は不明だが、おそらく40歳近いだろう。にも関わらず、女子高生がつけている香水を買いに行ったり、癒される場所を渋谷センター街と答えているのだ。そんな彼が、先ほどいった3人の女性に出会い、その記録を元にこの本を作っている。

1人目の少女は「ユリカ」という。彼女が母親に、「うぜえんだよ!」と罵声を浴びせているときに、彼の目に留まる。彼女は、母親の「人前に出しても恥ずかしくないように」という教育の下、常にいい子でいようとした。「いい子」でいると母親が褒めてくれるので、彼女自身嬉しかった。だが、突然嬉しいという感情が出てこなくなってしまう。彼女は気づくのだ。「ママのすることは本当の愛じゃない」と。だから風俗店で働き、整形手術を受けようと、化粧をして「自分自身で自分を作ろう」と必死だった。そんな彼女の話を聞いて、彼はある少女の話をする。

2人目の少女「エミ」である。彼は自身の故郷、福岡県で暮らす少女の写真展を開くためにモデルを探していた。数ある候補者の中から選ばれた1人が、エミであった。彼女の母親が彼女のすべてを、心までも決めているようで、1人では何もできない子だった。彼は、そんな檻の中いるような彼女を救ってあげようとした。撮影の日、彼女は目を瞑って開ける、という作業を幾度も繰り返し、ついに自身の心を生み出した。なんか感動的一瞬だった。そして彼女は、クラスからのいじめゆえに休んでいた学校に通うようになるまでに成長した。けれども、彼は彼女と別れた後残酷なことを思うのだ。「エミにとっては大切な出来事でも、写真家の僕にとっては、ひとつの出来事にすぎない。」と。彼女はしばらくして、変貌する。派手な化粧をして、母親に「死ね!」といって包丁を突き立てるようになる。しかし、そうすることで彼女は母親に本当の愛情を求め続けていた。後に彼女は生きる希望を失って死んでしまう。最後に彼に「アタシいきていなくていい?」という言葉を残して。彼は彼女と連絡を取っていたにも関わらす、彼女の最後の叫び声に気づくことができなかったのだ。

3人目は、元ギャルで今は社会人の「サヤカ」であった。彼は彼女と自身のホームページ上で知り合う。彼女は、母と大学教授の父を持つ何不自由ない家庭で育ち、成績が悪いわけでもなく、いじめを受けているわけでもなかった。しかし彼女は、家庭を顧みない父と、「いかによい子に育てるか」ということに必死だった母に次第に寂しさを感じるようになってくるのだ。母は、本当に私を見ているのだろうかと。その気持ちは、愛犬「ミミ」を失ってからますます強くなり、「死」までも考えるようになる。自分、母を切り裂いて、本当の自分と母の真の姿を生み出そうとしたのだ。本当の自分を愛して欲しいと願っていた。結局彼女は行動には移せず、家出をして援助交際を始めた。そんな経験をしてきた彼女だからこそ、今を生きる女子高生の気持ちを理解できるのかもしれない。彼女は言っている。例えばヤマンバが、地べたに座っている女子高生が、世間にゴミと言われてもそのような姿でいようとするのは、「ダメな子は自分を社会のダメな子像にあてはめる」ことで、最低でも無視されない。社会に存在していると感じられるからなのだと。彼女も母親に本当の自分の姿を無視しないで欲しかったのだね。

私は、この本を読んでおそらく彼女達の気持ちを半分も分かっていないだろう。けれども、住みにくい世の中になったということは分かる気がする。私は是非この本を、大人の人に特に読んでもらいたい。彼女達にはある共通点がある。そこを見つけてもらいたい。そして「子に対する本当の愛情は何なのか」ということを学んでもらいたい。それが理解できたとき、今見直されている子と親の本当の絆が出来てくると私は考える。

Copyright(c)2013 松山大学経済学部 All rights reserved.