最優秀賞 「日本という国
矢野広大(11074004・岩林ゼミ・八幡浜高等学校)

 『日本という国』何とも漠然とした題目である。私はこの題目に惹かれて本書を手にした。

この本の著者は小熊英二氏である。一度、現代文の教科書で著者の「グローバリゼーションの光と影」という文章に触れたことがある。この著者の作品は難しい内容を取り扱っているにも関わらず、誰にでもわかりやすく、説得力がある。この『日本という国』も、私たちの住む「日本という国」の仕組みや歴史、また、現在の状態がどうやってできたのかがわかりやすく書かれている。内容は日本の建国時代であり、節目でもある、明治時代と第二次世界大戦後に焦点をあて2部に分けて書かれている。

第1部では、明治時代を題材に話が展開されている。ただ明治時代といっても幅が広い。著者はそんな明治時代の特に教育事情に的を絞って話を展開している。福沢諭吉が「学問のすすめ」で、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と述べ、人間は平等であるということを主張したことは有名である。だが、これには続きがあり、諭吉が本当は何を伝えたかったのかということに著者は触れている。江戸時代までは「武士の息子は武士、商人の息子は商人、農民の息子は農民。女の子はおなじ身分の人と結婚。」という身分制度があり、子供たちは将来が約束されていた。しかし、明治に時代が切り替わり、身分制度が廃止されたことで、身分でなく学問で自由競争をする時代に突入した。そこで、諭吉は「勉強をするものは成功し金持ちになり、勉強をしないものは貧しい下人となる」と主張し、勉強することをすすめたのだという。まるで、現在の高学歴社会を見据えての主張だったかのように思える。この福沢諭吉の「学問のすすめ」一つをとってみても、これだけ奥が深いものなのだと感心し、著者の視点の鋭さを感じた。

第2部では、第二次世界大戦(太平洋戦争)後の日本とアメリカとの関係、日本とアジア諸国との関係を軸とし話が展開されている。

戦後アメリカの占領下にあった日本は、アメリカにとっては都合の良い相手であった。憲法草案の作成、自衛隊の発足、敗戦処理などすべてアメリカの手で行われたとされている。現在日本が抱えている、靖国神社参拝問題や憲法改正問題、自衛隊の海外派遣問題、在日米軍の問題などの原因はすべてそこにあるのではないかと著者は述べている。敗戦直後のアメリカの対日政策は、日本の非武装化と民主化だった。しかし、冷戦が始まるとアメリカの方針は変更され、アメリカ軍の援助をさせるために、日本に戦力を置くことにした。そのため、非武装化のために作成された憲法第9条「戦力の放棄」はアメリカにとっては邪魔な存在であり、改正しようとしていたようである。戦後の「日本という国」はアメリカの利己的な方針によって成り立ってきた。同じようにして、日本が戦時中侵略していたアジア諸国との外交問題にもアメリカが密接に関係していた。日本は、アメリカのうしろだてを利用して、戦後の賠償、国交回復に取り組んできたという。そんな日本のアメリカにおんぶにだっこの態勢が、現在のアジア外交の問題の引き金になっているのだと著者は指摘している。また、日本の歴史教科書では日本は被害者と言わんばかりに自国が受けた被害について大々的に取り上げているが、他国に与えた損害についてはあまり触れられていない。本書ではその真実に著者が迫っており、日本は被害者であると同時に、加害者であるということを忘れてはいけないと訴えている。

現在の日本は、靖国神社参拝問題や憲法改正問題、自衛隊の海外派遣問題、在日米軍の問題、アジア外交の問題と多くの問題を抱えている。これらの問題に、私たちは日本国民としてどのように対応していくべきなのか、著者は「どうするのがよいか、それは君自身が考えてほしい。」とし、答えを出していない。だが、私はこの本を読んで著者の伝えたかったことが少しばかりではあるがわかったような気がする。それは、「日本という国」のこれまでの歩みを理解することが、これらの問題を解決するための糸口になるということである。

現在、学校ではゆとり教育の導入により、歴史教育にかける時間が削られている。また、教育内容についても広く浅いものになっている。そのことが影響し、日本に住んでいながらも、日本の過去を知らない若者が増えてきている。この本は、これまでの「日本という国」の歩みを理解し、そして、これからの日本を考えていく上でも、是非ともこの現代日本に生きるみんなに目を通してほしいそんな一冊である。

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