優秀賞 「きみたちと現代 生きる意味をもとめて」
山田実希(11063572・岩林 彪ゼミ・長浜高等学校) 

「生きる意味」。それは私たち人間にとって最も大きな問いといっても過言ではないだろう。その答えは十人十色であり、様々な分野、角度から見出すことができる。著者はその例を「社会的な視点」から鋭く読者に訴えかけている。

まず現代の子供たちの生き方を懸念する内容から始まる。それには「教育のゆがみ」が子供たちに大きな悪影響を及ぼしていると。将来のために努力しすぎた結果、実は大切な「今」をないがしろにしているのではないか、というのである。その一方で「死にいそぐ子ら」や「親子の心理的な共棲関係」、「モラトリアム行動」が増加している。こうした風潮のなかで私たちはどうすればよいのか。フランクルの著した『夜と霧』という一冊の本から第一章は展開されていく。

その本はフランクルが想像を絶するナチ・ドイツの強制収容所を生きぬいた体験記録だ。そのとき、彼の周りには常に死が満ちていた。ほとんどの人が人間らしい心を失っていくなかで、彼は違っていた。それは何か。「苦悩を積極的に引きうけ、人生の意味をあくまでも問い続けるたくましい精神力」が彼にはあったのだ。この「逆説的」な考えを持ち続けることで、彼は地獄のような日々を耐えぬくことができたのである。「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題ではない。むしろ、人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである」。これがフランクルの私たちに対するメッセージなのである。

このことを踏まえたうえで、第二章では、「現代社会に生きる」ためには何が重要であるかという問いに移っていく。現代の日本の政治は民主主義のもとで行われている。民主主義が「抗議的な制度」であるためには、一人一人が「成りゆきにまかせない」姿勢で臨むことが必要不可欠なのである。そこでは必然的に矛盾や対立が生まれる。だから「コンフリクトとともに生きる」ことを避けてはいけないのだ。もし、「コンフリクト」を拒絶する社会になれば、「閉ざされた社会」言い換えると、それが「ファシズム」なのである。

第三章では、「みんなと生きる」ヒントとして、シュヴァイツァーの本当の人生が描かれている。彼は生涯の50年を熱帯アフリカの黒人の医療のためにささげたことで知られているが、近年彼の生き方に対する非難の声が高まっていた。彼は偽善者で、実は黒人たちの「キリスト」のような存在になりたかっただけなのではないかと。しかし、著者は様々な角度からシュヴァイツァーを分析し、その結果、見事にその説をこの本で覆している。それは彼の「生きものに同情するこころ」がうかがえる『わが少年時代』を読めば、彼の行動が偽善ではないということがわかる。彼は「みんなと生きる」ためには「『生命への畏敬』の実践」が重要であると説いている。それは争いの絶えない不透明な現代だからこそ、欠けてはならないものなのだ。

最終章では「平和をつくり出すのもの」というテーマのもと、私たちが肝に銘じておかなければならないことがつづられている。「戦争をしたくなければ平和の備えをせよ」ということだ。そのキーワードは「良心的兵役拒否」、「非暴力・不服従」、「核廃絶」であり、これらを実践することが「宇宙的規模での『積極的』平和」を実現する礎となるだろう。こうして著者の主張はクライマックスを迎える。

この本を読んでいくなかで、非常に感銘を受けたのはフランクルの生き様である。たとえ、当時のような体験をすることは今となってはありえなくても、人生のなかで辛く苦しい立場に立たされることは何度もあるはずだ。そんなときこそ、彼のようなふるまいを貫くことで大きく人生がプラスに働くのだろう。最後まであきらめない姿勢がいかに重要であるか、私はフランクルから学ぶことができた。

「コンフリクトとともに生きる」ということは、別の言い方をすれば「物事は疑ってかかれ」という意味なのだろうと思った。みんながそれぞれの意見に「はい、そうですね。」と頷いていたのでは、間違いに気付くことも正すこともできない。そんな社会になってしまわぬように、私たちは「コンフリクト」とうまく付き合っていかなくてはならない。

最終章を読んで痛烈に感じたのは、武力に武力を行使するかぎり平和は訪れないということである。初めは「そんなことは当然だ。」と思っていた。しかし、「そんなこと」がわかっているはずなのにやめられない人がいるから、全世界に平和が訪れていないということに気付いた。万が一、日本が戦争の火の粉を被ることがあった場合、私たちはどこまで「非暴力・不服従」を貫くことができるのか。そこで人間としての真価が問われるに違いない。

この本は、確実に私たちの視野を広げ、生きる糧を与えてくれる一冊である。
 

Copyright(c)2013 松山大学経済学部 All rights reserved.