優秀賞　「地下室の手記」
山﨑久美子（11063554・鈴木　茂ゼミ・中村高等学校)　　

この本は、題名からして少し暗そうなイメージがある。読んでみるとその通りであった。人間誰しもが持っている復讐、恨み、などのとても陰湿な部分が書かれてある。

まずは、本の内容を語っていこうと思う。主人公の彼はとても繊細でとにかく常に人を恨んでいる。そんな彼の少し変わった性格から彼は同級生に馬鹿にされてきた。そしていつか、「そいつら」に何としてでも苦しみを与えたい、恥をかかせてやりたいと思うようになったのだ。そして頭のなかであれこれ考えるようになった。が、なかなかそれが実行できない。こんなことを言うのもどうかと思うが、悔しいことがあると頭の中で、あー言えばよかった、あんなこと言わなければよかったなどと後悔することは誰しもがあるのではないか。

そしてついに彼は行動にでる。しかし彼はやっと実行に移したものの、ここでまた後悔するのである。なぜあんなことをしたのかと、自分が恥をかいたと。そう、彼は返り討ちにあってしまったのである。復讐を始めたはいいが、いきなり時間を一時間騙されてしまったのだ。

もちろん私もそうなのだが、一般的な人であれば一時間も待たされると気分を悪くするのに、こんなにもデリケートな彼をまたせるなんて…ただの嫌がらせではないか。人間とは恐ろしいものだ。どんなことでも平気でやってしまうのだから。プライド、私はいつも思う。プライドがじゃまをしていると。プライドがなければ恥や後悔そういう醜い部分を感じないのではないだろうか。

それからその後、彼は決闘することを決意する。しかしここで大きな転機が訪れる。決闘の場に選んだところで、ある女性に出会ってしまうのだ。その顔はとても「素朴」で「善良」な顔つきであった。そして好感を持ったのだが、彼女と話をしているうちに、何故かイライラしてきて嘘をならべてしまう。そんなもどかしい日々を送っていたが、それから何日か後…彼女が家に訪ねて来るのだ。その時彼は彼の使用人とお金の事などで言い争いをしている最中であった。そのためなのか彼は彼女が自分があの日かけた同情の言葉をまた言ってもらいたいが為に訪れてきたのだと思って、彼女に皮肉を言ってしまう。彼女のことが好きなのに…。

相手のことが好きなのにそれとは正反対の言葉が出てきてしまう。イライラしていた感情からつい出てしまったものなのか、違うのか。私にはこれは、まるで小学生がしている恋のように思える。誰しもが経験あることではないだろうか。好きなのに嫌いと言ってしまう。言葉とは本当に怖いものだ、口にしてしまえばそれはなかなか前言撤回できるものではないからだ。気持ちを伝えるのは言葉、相手を思い切り傷つけるのも言葉だ。ここで少し考えてみるといい。自分自身どんな言葉で相手を傷つけ、どんな言葉で愛を伝えてきたか。この場面はそんなことを考えながら読むと面白いのではないだろうか。

最後に私の感想を少しつづってみようと思う。初めは読んでいてとてもイラっとくるものがあった。というのは、読者を「諸君」と呼ぶからだ。なぜそのことが自分に不快感を与えるのかというと、作者から読者である自分が見下されているような感覚に捉われてしまうからである。誰でも見下されると不快な気持ちになるだろう。がしかし、この本を読み進んでいくうちに不快感が不思議と消えていき、彼の言っている事に対して私も共感してしまう部分がたくさん出てきた。わかる、わかる、その通りだ。そう思う部分が多く出てきた。

とは言っても復讐をしてやろうということではない。どういうことか…ただ恨み、苛立ちを覚えるだけである。たとえ自分が「彼」の立場でも、復讐をしようなどとは考えないだろう。自分はそんな人間ではない。少し彼がわからない、復讐をしたいなんて思う人の気持ちがわからないと思っている人もこの本を読んでいるうちに気づくであろう、あれ？何か変だ、自分にも復讐を企てている彼と同じような感情がある。そしてそこで気づくのである。人にはこんな感情が必ずあるのだと。だが、ここまで、復讐を実際にしたいと思うまでに人に憎しみを抱く人間がいるのだろうか。私が苛立ちを覚えても復讐を実行に移さないのは、憎しみも所詮その程度だからではないかと思う。自分に復讐心はあるのか、そんな陰湿な部分は持っていないのか。それは誰にもわからない。友達にも、親にも、そしてもちろん、自分自身にも。ただ、自分の陰湿なものから目を背けているだけなのか、人間とは都合の良い生き物である。私自身もそうだが嫌なものからはどうしても目を背けたがるのである。“棚に上げる”この言葉もそんな人間の心があるからこそできたのではないだろうか。だが、この本は本当に少し、今まで自分自身で気づくことのできなかった部分を気づかせてくれる。見ようとしないものを見せてくれる。そんな一冊である。