優秀賞 「元気がでる介護術」
中西一也(11062138・渡辺 扶美枝ゼミ・高松中央高等学校) 

私は今回、書評の課題図書として、三好春樹氏の「元気がでる介護術」を選んだ。この図書は、単に介護の仕事の内容を説明したものではなく、人間としてのあり方を介護という言葉を通じて私達に語りかけている作品である。

そして私は、この図書で書かれている多くの話の中から二つについてまとめていきたい。まず一つ目は、「栄養士」についてである。ふつう、栄養士というと、病室の老人や患者のために事務所で献立を立て、調理室で実際に作り、カロリーを計算したりする仕事である。だが、この図書の中では、「病室に出かける栄養士」という、あまり聞き慣れない栄養士が登場する。献立を立てたり、調理したりする現場も大変だが、それを何のためにするのかといえば、病室の老人や患者のためである。その食べる現場にいなければ、何も見ていないのと同じである。それに老人や患者は、出された食事だけを食べているわけではなく、買ってきたお菓子や果物なども食べる。さらにその人が、きちんと定期的に身体を動かしているかさえも知っておく必要がある。このように、生活全体を見渡してないと栄養士の仕事はできない。こういった斬新な考えを持った一人の栄養士のおかげで、今では「病室に出かける栄養士」という形の栄養士が徐々にではあるが増えてきている。一般に介護というと、実際に老人や患者の身の回りのケアをする仕事だと思われているようだ。しかし、その影には栄養士という人達が存在し、介護の手助けをしているということを忘れてはならない。これが、介護する側とされる側との、互いの人間関係を保つ大きな役割だからである。

そして次は、「理学療法士」についてである。一般に理学療法士の仕事は、老人介護施設などで、病院から退院してきた老人に特別な訓練をさせ、家庭復帰の手助けをする職業である。この図書の中に出てくる坂井さんは、専門学校を卒業後すぐに、「理学療法士として、自分の専門的な知識を役立てよう。」と決意する。それから坂井さんは、ある八十歳の女性入所者と出会う。施設の入所者は、最低週二回はリハビリなどの訓練をするように決められており、間接可動域訓練や筋力増強訓練を繰り返すのだが、その女性は訓練室に毎朝一番にやってきた。その熱意に胸を打たれ、それに答えようと坂井さんの指導にも力が入り、毎日のように訓練につき合っていた。しかしある日、珍しく女性の姿がなかったので、介護職の人に聞くと、「あの女性は夕べ亡くなりました。」と聞かされる。それから坂井さんは、「私は、明日亡くなる人に訓練をしていたのか。」と虚しさを感じ始め、自分の考えを改めることにした。そして坂井さんは、自ら訓練の担当を外れて、老人の自宅で入浴介助を行ったり、施設の入所者と一泊旅行に出かけたりして、「お風呂に入る方が関節も広がるし、旅行に出かければ体力もつくうえにストレスの発散になる。」と言って、今でもこういった活動を続けている。今までの理学療法士は、つい訓練することだけに執着してしまい、入所者の精神面に関してはあまりケアができていなかったのが現実である。確かに訓練も入所者の家庭復帰のために重要ではあるが、一番大切なのは、入所者がそれを受ける際の自由な環境と、心のケアではないだろうか。坂井さんは、これからの理学療法士のあり方を忠実に改めたのではないだろうか。

そして私が、この図書の中で特におもしろいと感じた部分は、タイトルには「元気がでる介護術」とあるのだが、実際に開いて中を読んでみると、あまり「介護」という言葉にこだわらず、難しく書いていないところである。さらに、介護に関してあまり興味がない人にも分かりやすく、体験談などを織り交ぜて読者の心を惹きつける点にある。それは、実際に私がそうだったからである。この図書を読むまでの私は、「介護」という職業にあまり関心がなかったのだが、この図書の話に出てくる、「栄養士」や「理学療法士」の人達の体験談を読んでいるうちに、「私も将来は、介護という職業を体験してみたい。」そう思い始め、心を動かされました。将来、「私は介護の職業に就きたい。」と思っている人以外の人はほとんどが、「介護」に関して知識も関心もあまりないはずだ。しかし、少子高齢社会と叫ばれている現代に、「介護」という職業は自然に必要となってくる。まだ自分が、将来なりたい職業が見つかってない人は、この図書を読んで介護について少し学んでみてはどうだろうか。

また、私はこの図書の中で、「介護」の仕事の重要性を知ったのと同時に、老人の方に対する思いやりの心を教わった。特に、自分を含めた最近の若者は、体力的に下の老人の方に対しての思いやりが極めて少なく、非常に冷たいと思う。しかし考えてみれば、今の老人の方達がいるからこそ、私達が今こうして生きているのである。これからは、みなさんもそのことを決して忘れず、今度は私達が介護の面から恩返しをするべきではないだろうか。 

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