最優秀賞 「あの戦争はなんだったのか−−大人のための歴史教科書」
藤堂 陽(11062019・北島健一ゼミ・三間高等学校)  

 小泉総理大臣が靖国神社に参拝したといって何が悪いのか。この問いに的確に答えられる人はなかなかいないのではないだろうか。

 保阪正康氏の『あの戦争は何だったのか‐大人のための歴史教科書』は昨年7月に発売されたものであるが、昨年は戦後60年の区切りのよい年であったこともあり、マスコミ各社がたくさんの特別番組を編成し、放映していた。そのなかで取りあげられたのが、小泉総理大臣の靖国参拝問題である。中国や韓国との外交問題に発展するほどのことなのだが、すべては太平洋戦争等が関わっているということだ。過去に起きたこういった事件についてしっかり学び、理解する必要があると思うのだが、若者の中には歴史には興味が無く、全く無知な状態で今を生きているものも多いと思われる。この本はタイトルの通り、太平洋戦争を中心とした戦争に関する問題を取り上げた本なのだが、過去に日本が行ってきた戦争という過ちについて、知り、学ぶにはもってこいの本だと思う。

 旧日本軍を中心として、日本がどのように太平洋戦争への道をたどり、そして敗れたのかを記しているあたりは、歴史教科書さながらの感がある。もちろん歴史教科書と異なるのは、内容はほとんどが筆者の主観や分析であることだ。従来の考え方と対立して、筆者ならではの考え方が記されているのだが、この主張はなかなかおもしろい。

 例えば、日本がなぜ戦争に突入したかについて、教科書などでは陸軍が暴走し、日本全体を引っ張っていたとするものが私の見た中ではほとんどを占めていた。この筆者もおおむねは認めるが、その一方であまり注目しなかった海軍の関与を指摘している。真珠湾攻撃に至る昭和16年ごろ、海軍の中枢には戦争肯定派が多数いたという。東条英機に代表される日本陸軍の中枢は、戦争はしたいが海軍が行うと言わなければ戦争するのは難しいと認識していたようである。だからこの時期に海軍中枢がどういう人間に動かされていたのかが大変重要だったのである。また海軍の積極派は、石油の備蓄量についての情報を操作して、日本がおかれている状況をいいように見せかけたということも書かれてあった。今現在もそうだが、日本は石油などはすべて輸入に頼っており、戦争中も例外ではない。そういった状況で戦争開始直前に「あと2年持たない」という情報がまことしやかに流れ、政府は戦争開始に踏み切ったという。このことに関しても筆者は海軍の戦争積極派のまやかしだったのではないかと推測している。「太平洋戦争開戦について、最初に責任を問われるべきは海軍だった」と断言するあたり、なかなかおもしろい見解が展開されている。

 この本を読んだ時、太平洋戦争を詳しく説明している本だと思っていたが、実際は表や写真、年表などを駆使し、また、実際に生き残っている兵士や官僚などから聞き取り調査をしているところがすごい。やはり生の声を拾い歩くほど、この筆者にとって旧日本軍とは、ライフワークの一環となっているのだと実感させられた。

 この本を読んで感じたことは、太平洋戦争は目標も目的もないまま、ただ突き進んでしまったものだと主張しているということだ。筆者の希望するところ、歴史をありのまま考証し、余計な考えを持つべきではないということではないだろうか。今の日本は戦後60年を経て、勝手な思いこみや聞きかじりで戦争についていいとか悪いとか語る人が多すぎる。そういう者に警鐘を鳴らす目的もあったのではないかと感じるのだ。

 この本は歴史教科書よりはるかに難しいが、今の政治の在り方を見つめ、意外な共通点を見つける一助となると思う。戦後60年を経た今、改めて正しい歴史を認識し、さまざまな考えをめぐらしてみてもいいかもしれない。

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