優秀賞 「ライ麦畑でつかまえて」
松本 功  (051320  張 貞旭ゼミ  室戸高等学校)  

「ライ麦畑でつかまえて」という題名から、私は最初ライ麦畑で繰り広げられる少年と少女の恋物語だと、勝手に想像していた。しかし、実際に読んでみると、一人の少年の心の中を描いた作品だった。<BR>

物語の主人公「ホールデン・コールフィールド」は、友人と話すときでも、どこかふざけた態度をとってしまうところがある。退学することになった高校の寮での友人との会話にも、よくそういった場面が見られる。年上の友人と話している時に、わざと名前に「坊や」と付けてみたり、急に幼稚な言葉を使ってみたり。おまけに、人の嫌がることを何度も繰り返したりもする。そのせいで、寮での最後の夜にはケンカになり、友人に一発殴られてもいる。正直、最初は「こんな奴が周りにいたら、自分は友達になっているのかな」と思った。どこか他の本の主人公とは違うな、という感じもした。<BR>

寮を出たホールデンは汽車に乗りニューヨークに行った。実家もニューヨークにあるんだけれども、両親はまだ退学のことを知らないから、ホテルに泊まることにした。この時ホテルまでタクシーを使ったんだけれども、そのタクシーの運転手との会話もどこか人とは違っていた。ホールデンは、ある池の家鴨が、池が凍っているときどこに行くのか、なんてことを運転手に聞くのだ。運転手も、「俺をからかうつもりか」と言ったんだけれども、ホールデンにそんな気は無く、本当にそう思っただけだった。ホールデンというのは、どこか人とは違うところに目がいく奴だとこの時思った。それは家鴨に対してだけじゃなくて、人を見るときもそうだからである。<BR>

彼はよく、人に対して嫌味を言う。たとえ言わなくても、心の中では思っていたりする。ホテルに着いた後、彼は酒を飲もうと店に行くことにした。そこには腕のいいピアニストがいるんだけれども、彼はそのピアニストをよく思っていない。ピアニストの弾き方や持っている雰囲気が気にくわないというのだ。腕のよさは認めるけど、それ以外は気にくわない。他人がどれだけ拍手をしようが自分はしようとは思わない。すごくひねくれているようだけれども、違ったところで、彼はピアニストを気の毒に思っている。あれだけの拍手の中で、自分の演奏の善し悪しも分からなくなっているのではないかと。<BR>

このように、人の気付かないようなところに気が付くというのが彼のよいところである。だから、人とは違った発想というのが色々出てくるし、時には世間一般の考えと違ってしまうこともある。しかし、あくまでこれは彼の個性なのだ。<BR>

次の日、ホールデンは友人の女の子とデートをすることになったけれど、このデートは散々なものになってしまった。その後、知人と会う約束を取り付け、時間をつぶすために映画館に行くことにした。しかし、彼はとても映画を嫌っていて、その時見た映画も「あんな映画は見ない方がいい」みたいなことを言っている。それに、隣に座っていた女の人が映画の間じゅう泣いているのを見て、「映画のインチキな話なんか見て目を泣きはらす様な人は、十中八九、心の中は意地悪な連中」だと言っている。私は正直「ドキッ」とした。私自身も、よく映画を見て涙をながすことがあるけど、優しい心の持ち主かと言われたら、自信を持って「はい」と言うことができないからだ。彼には痛い所を突かれたと、この文章を読んだときに思った。<BR>

この後、ホールデンは約束をしていた知人とバーで会うんだけれども、すぐに一人になってしまい、そのままかなり酔うまで飲んだ。それから店を出て公園に行き、色々と考えごとを始めた。そのうち妹のことが気になりだして、彼は妹に会うためだけに、自分の家に戻ることにした。ニューヨークに来てから、彼は妹に電話したいだとか、会いたいだとか時々思っていた。本当に彼は、妹のことが好きなのだ。妹のことを思ったとき、妹に出会ったときに、すごく彼のやさしさを感じることができた。「本当はやさしくて妹思いな奴」だと、妹と話したり行動している彼を見て、そう思えるようになったし、彼について、自分は誤解していたと思わされることになった。<BR>

主人公「ホールデン」は、どこか私達と違った発想や考え方をする奴である。それでいて、彼は私達より「本当のこと」をよく知っている。いつの間にか、彼に感心させられている自分が、この本を読んでいる時にいた。たまには違う視点から、人や世の中を見てみるのも悪くないだろう。主人公「ホールデン」を、本を読みながら自分なりに分析してはどうだろう。そうすればそうするだけ、「ホールデン」のことがすごく好きになれる。この本は、難しいことは考えず、主人公のように人や世の中を楽しく見ることができる、そんな作品である。

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