優秀賞　「自分の顔が許せない！」
久髙　哲弥　（051126 　増野仁ゼミ　首里東高等学校)　　

現代では、顔や身体だけで、その人の印象が決まってしまうぐらい、「外見」というものが周りの人々に大きな影響を与えている。そのせいで、ほとんど誰もがコンプレックスを持つようになり、化粧や整形などをして、元の自分を変えていく。

本書では、美容整形経験のある女性と、顔面にアザをもつ男という当事者の二人の著者同士が、このような世の中で生きている自分達を含めた人間の顔や身体のこだわり、コンプレックスなどについて、お互いの意見を出して討論し、読者の内面世界を広げてくれるようになっている。しかし、ただ読むだけではこの内面世界というものはなかなか広げられない。この討論に読者のあなた自身も参加し、自分の意見を頭に浮かべながら読むことにより、互いの意見をぶつけ合い、なぜ、顔や身体にこだわり、悩まなければならないのかという疑問の答えにより近づけることにつながる。その答えがなければ内面的世界は広がらないのだ。まさに「言葉の格闘技」。

討論が始まり、二人は互いに、自分の過去の出来事を話した。「顔面にアザを持つ男」こと石井政之は、仕事柄、同じ顔の悩みをもつ人の相談に応じて、いろいろな人に会ってきているが、その中には、「醜形恐怖」の人が多く、男の人もいると言っている。今では男の人までをも「醜形恐怖」に陥るようになっているということだ。「男が化粧するなんて」という社会常識さえなくなれば楽ですが・・。

では、芸能人など男性でもメイクする人がいるが、それはどうなのだろう？という疑問が浮かぶ。しかし、それはよく見せるためのメイクであり、一種のコスプレのようなものだ。決して悩みを隠すためではない。このように考えると、隠すためのメイクは「武装」とも言えるのではないか。これは男性だけではなく、女性にも言えることである。

「美容整形経験のある女性」こと、中村うさぎは、自らの美容整形手術の様子をビデオで録画し、それについて語った。

一般的に美容整形は、ビフォー・アフターだけを見せるけれども、ビフォー・プロセス・アフターすべてを見せることは、彼女自身の希望であった。でも、こういうプロセスを見せて、「それでもあなたはフェイスリフトしますか？」というようになるのであれば、とてもいいことである。整形したいという人はこういう部分を知らなくて、つまり、プロセスに霧がかかっており、完成図だけが頭にあって、ということが多く、やっぱり整形することはこういうことです。と彼女は言いたかったのではないだろうか。

それから二人は、意見が食い違いになると、ユーモラスかつ真面目に対談し、同じ考えのときは、お互いにそれを共感しながら討論を進めていった。そして、討論の終盤に「肉体が違うと文化が違う」という、なんとも重要な言葉が出てきた。「肉体」によって、人の人生、思想は変わる。つまり、肉体の数だけ言葉があるということだ。例えば、チビと２メートルの男とでは、その身体から出てくる思想は違う。「顔」という面では、アザのある人間というのは、顔についての思想がアザのない人間とは全然違う。だから、多様な肉体を持つ人との出会いというのは思想と思想のぶつかり合いであり、少々意見が食い違ってディスコミュニケーションがあったとしても、英語と日本語で意味が通じないのと同じように、そんなことは気にしないでよい。それは、肉体の言葉、肉体言語が違うわけであるから。肉体言語を少しでも一致させるように努力するかどうかという問題なのだ。

討論が終わり、中村さんのあとがきには、「対談は知的な快楽だ。」と書かれていた。確かに、彼女のように相手に恵まれ、新たな世界が広がる喜びを得ることができればそう思えるが、なかなか恵まれた相手がいないのは事実である。

この本は、このような世の中には必要な本であると思う。読んでいると、まるでこの二人と三人で討論に参加しているように感じ、自分の考えなどが自然と頭に浮かんでくる。このようにして、自分なりの答えを出してみては？読み終えたときに実感できるはずだ。大切な事がどういうことなのかと。私も読んで自分なりの答えを出した。今のままの顔や身体ですべてのことをどこまでできるのか。ということが私の内面世界を広げてくれた大切なことである。短い、本当にあっという間の人生の中で、でき得る限り世界を広げる経験を得られてよかった。と実感できた。

本書の構成は対談文のようになっており、二人が話した言葉がそのまま書かれている、なんともリアルな著書である。それに加えて、文の最後に｢笑｣などが書かれており、そのときの本人達の表情も知ることができる。

さぁ、自分の顔や身体に満足している人も、そうでない人も、この｢言葉の格闘技｣に参加してみませんか？人生を変える一冊です！