優秀賞 「暮らしの水・社会の水
菊地浩樹 (041110・道下仁朗ゼミ・宇和高等学校)

「地下水や湧き水はなぜおいしいのでしょう。」、「水以外の成分をまったく含まない純粋とはどんな水で、自然に存在するのでしょうか。」、「柔らかい水で硬い金属やガラスが切れるでしょうか。」

このような質問に、はっきり答えることができる人は少ないのではないだろうか。本書によれば、それぞれのキーワードは、「ミネラル分」、「超純粋と理論純粋」、「ウォータージェット」である。これらのキーワードを使えば、何となく説明できそうな気になってくるのが不思議である。このように、「水」に関する「分かっているようで分かっていないこと」について、具体的な数字などを用いて分かりやすく解説し、更には今後の課題などについても述べられているのが本書である。「調べてみよう 暮らしの水・社会の水」という表題のとおり、身近な「水」について「調べてみよう」というのが本書の出発点であり、「水」への理解を深めることによって「水」や「物」の大切さを知り、自分の生活を見直して欲しいというのが本書のねらいである。それにしても、この本は、「水」というありふれたテーマでありながら、驚きと発見、そして納得の連続なのである。

まず、最初の驚きは、「20世紀は領土紛争、民族紛争の時代だったが、21世紀は水紛争の時代になるといわれています。」という言葉であった。「水紛争」とは、ずいぶん大げさだという印象を受けたが、この日本で、2003年3月に、「第3回世界水フォーラム」が開かれ、「水は人類が共有する資源」であることを確認し合っているのだ。本書は、冒頭で「地球の水」について、それこそ天文学的な数字を並べて説明しているが、このまま人口の増加や水質汚染が進めば、地球規模の水不足は避けられないと指摘している。日本は、農作物を中心に大量の食量や生活物質を輸入しているが、それは間接的に「水」を輸入しているのである。まさに今、牛肉や鳥肉の輸入禁止によって日本は大きな打撃を受けているが、それは、間接的には「水」の輸入問題でもあるのだ。それにしても、「地球の水」、「水の循環」というものを考えたとき、太陽の働きがいかに大きいかが分かり、太陽の恵みのありがたさを今さらながらのように痛感させられる。

次の驚きは、日常生活における水の利用についてであるが、工場における水は、「産業の血液」と呼ばれるほど重要な役割を果たしており、工場用水として一日に約1億5200万立方メートルの淡水と4200万立方メートルの海水が使用されているとのこと。まさしく命の水である。最近は、水の再利用ということに力を入れ、1965年には36%の回収率であったのだが、2000年には78%もの回収率になっているということである。再利用ということでいえば、下水の再利用も目を見張るものがあった。下水の熱エネルギーで地域冷暖房を行ったり、水素を取り出して燃料電池の燃料にしたり。更に、下水汚泥は埋め立てや推肥だけでなく、レンガになったり、脱水汚泥からはネクタイピンやペンダントなどのアクセサリーに加工しているということだ。まさに驚きの技術である。「下水道は資源の宝庫」なのだ。また、下水処理の過程で微生物が大活躍しているということも大きな驚きであった。自然界に存在する力をうまく活用している例であろう。

三番目の驚きは、農業用水である。中国から朝鮮半島を経て伝わった水田は、日本人の生活の基盤となっている。稲作のために用水路やため池を作り、水車やポンプも作り、更には、河川の水を確保するための「河川法」ができ、「水利権」を確保するための努力が続けられてきたのである。水田は、水害を防ぎ自然環境を守っているといわれているが、連作障害がないのも水のおかげだそうだ。水なくして稲作は考えられないのである。ところが本書では、この農業用水と慢性的に不足している生活用水や工業用水とのアンバランスについても問題を投げかけている。水の再利用ということについては、より広い視野も要求されるのである。 私はこの本を読んで、「水」のことをさまざまの角度から知ることができた。「曝気槽」や「路地尊」という見たこともない言葉に出会うこともできた「水」への理解を深めることは、「人」への理解を深めることになるのだと思った。水に恵まれた日本で生活している私達だが、自然破壊が進めば今のように自由に水を飲むこともできなくなるだろう。私がこの本を読んで感じたことは、節水や雨水利用などに、一人一人がもっと積極的に取り組まなければならないということだ。きれいな水、おいしい水、かけがえのない、水を守るのは私達なのだということを忘れてはいけないと思う。わかりやすい写真やイラストを入れ、読みやすい本書は「水」の入門書であるとともに専門書でもある。

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