優秀賞 「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」
村上裕紀 (031368・吉田健三ゼミ・今治明徳高等学校矢田分校)

この本は、著者が東大で上野千鶴子教授にフェミニズムを学び、そこで春休みに「ここで学んだことをエッセイ形式で提出せよ」という課題が出て、提出したレポートを上野教授自身の推薦で出版してもらい、ベストセラーになってしまった本である。東大のゼミの雰囲気が、まだどこの大学のゼミにも行ったことのない自分にさえも、まるで隣にいるくらい凄くひしひしと伝わってくるようで、いきなりそこに飛び込んだ著者が目を白黒させてパニックに陥る様子も、「プロ」である社会学者としての上野千鶴子教授の凄さも十分過ぎる程、存分に描写されている。一見、タイトルだけ見るといかにも見掛け倒しっぽい様に思われがちだが、中身は全然違う。言葉で戦えるものは強いんだということを、「頭の中にドーンと大きな音が鳴り響いたのではないか?」と、錯覚させるくらい強烈に教えてくれる。そして更にその戦い方の云々を、この本を読む全ての人々に伝授してくれる。<br>

ところで、この本の著者の遥洋子という人は関西ではかなりメジャーなバラエティ系タレントであるらしいのだが、私にとってみればブックカバーの後ろの顔写真を見ることで初めて顔と名前が一致し、「そういえば前に何らかのテレビ番組で、某男性タレント達と意見しあったりしているのを1〜2回程見た記憶があるぞ!」と、いう程度にしか知らなかった。そんな人が、「何故に東大で上野千鶴子という人にケンカなんてものを学ぶ必要があるのだろう?」と、この本を手にした当初、本当に私はそんな困惑の思いに駆られずにはいられなかった。この本を読むと即わかることなのだが当初、遥洋子氏はテレビ番組の討論で男にいつもいいくるめられ、はらわたが煮えくり返るような悔しさと、相手をねじ伏せられない歯がゆさを感じていた。しかしこの仕打ちに対抗するために、東大のフェミニズム、社会学者の研究者である上野千鶴子のゼミに参加する。この本に登場するのは、上野千鶴子と学問と東大生。この上野千鶴子と東大生との付き合いの中で培われてゆく、遥洋子の「学問の感覚」が本当に面白い。

この本の中で私の最も好きな言葉であり、この本の帯文にもなっている物凄い言葉がある。それが次の文章だ。
「相手にとどめを刺しちゃいけません。」
(中略)
「なんで? なんでとどめを刺しちゃいけないんですか?」
「その世界であなたが嫌われ者になる。それは得策じゃない。あなたは、とどめをさすやり方を覚えるのではなく、相手をもてあそぶやり方を覚えて帰りなさい。」
私は鳥肌が立った。やっぱ、本物だ、と思った。
「議論の勝敗は本人が決めるのではない。聴衆が決めます。相手をもてあそんでおけば、勝ちはおのずと決まるもの。それ以上する必要も、必然性もない。

これ程強烈な言葉を本で見るのは、久しぶりだった。この他にもかなり強烈な言葉が多数この本に掲載されている。
この本に出てくる上野千鶴子は“学者、上野千鶴子”ではない。扉ページに、
これは私の知らない私です。――――――上野千鶴子
とあるように、“ナマ”の上野千鶴子なのである。実際、この本に書かれている上野千鶴子に関する内容は一切、修正されていないらしい。

この本を読み、フェミニズム興味を持ち始めると共にインターネットのあちこちの書評サイトでこの本について書いてあるものを見かけたのだが、殆どのサイトでこの本は「フェミニズムをわかりやすく紹介した」やら、「フェミニズムの導入所として高校の教科書に」など言われている程、高評価であるということがわかったと同時に、フェミニズムにはまだまだ未熟であるけれども自分も他人にそういう風にこの本を薦めたいな、という感想を持った。

最後にこの本を読んで一言、「そうだ、こんな本が読んでみたかった」と言える一冊だと、私は思う。ちなみにこの本の最後には、著者が上野千鶴子から学んだ、「ケンカのしかた十箇条」が列記されている。あなたもこの本を読み、本当のケンカのしかたを学んでみてはどうだろうか?

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